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2007年 01月 10日
Dpp濃度差と発生制御に関連して、もう一つ復習。
モルフォゲンがその絶対量ではなくて濃度勾配そのものによって組織の成長を制御する、というのは古くから提唱されている仮説であるが、それを直接的に説明するモデルが一年ほど前に提唱された。RutgersのKen Irvineラボからの以下の論文。 Rogulja D, Irvine KD. Regulation of cell proliferation by a morphogen gradient. Cell. 2005 Nov 4;123(3):449-61. ショウジョウバエwing disc上に形成されるDppの濃度勾配が、いかにして「均一な細胞増殖」というアウトプットに変換されるのか。その鍵は、Dppの濃度差によってトリガーされる細胞非自律的な細胞増殖にある、というのが彼らの主張。 これまで誰も見ることのできなかったこの現象を彼らが捉えることができたのは、単純にtemporalかつquantitativeな制御が利くGal4:Progesterone Receptor (Gal4:PR)遺伝子発現系を用いた点にある。Gal4:PR融合タンパクはプロゲステロンアナログRU486の存在下で初めてGal4転写活性を示す。まずAct>y+>Gal4:PR Flp-out cassetteを用いてwing disc上にGal4:PRクローンを誘導した後、その幼虫をRU486入りエサに移してやると、4〜5時間後にはクローン内でのGal4依存的な遺伝子発現が観察される。また、この遺伝子の発現量はRU486の濃度を変えることによって簡単に変化させることができる。 彼らはこの系を用いて、wing disc上で局所的にDppシグナルを活性化したときに見られる一過性の反応を検出することに成功した。すなわち、disc上にTkvQD発現(Dppシグナル活性化)クローンを誘導すると、クローン内のみならずそれに隣接する周辺細胞において一過性の強い細胞増殖刺激が観察されたのである(12-14h後でピーク、24h後にはほぼ消失。これにより通常のクローン解析では検出がきわめて困難)。ここで、TkvQDの発現は細胞死を誘導することが知られているため、この細胞非自律的な細胞増殖がいわゆる“undead cell”によって引き起こされる‘compensatory proliferation’である可能性が考えられた。彼らはその可能性を幾重にも慎重に否定しているが、それでもまだツッコミどころはある。ただし、後述のデータから、これに関する議論自体が無意味であるということが分かる。 彼らはまず、この実験系においてwing disc上でTkvQDを均一に発現させてみた。すると、wing discのlateral領域(内在性のDpp活性が低い領域)の細胞増殖は活性化されたのに対し、medial領域(内在性のDpp活性が高い領域)の細胞増殖は逆に抑制された。この結果は、均一で強いDppシグナルの活性化によって、本来存在するはずのmedial領域のDpp勾配が消失したためであると考えられた。 次に彼らは、RU486の濃度を変化させ、medial領域でみられる内在性のDpp活性と同程度のDpp活性化クローンをdiscに誘導してみた。すると、このクローンがmedial領域に存在する場合には、例の細胞非自律的な細胞増殖の誘導は全くみられないことが分かった。 彼らはさらに、brkまたはdadを発現させることによりDpp活性を低下させたクローンを誘導してみた。すると、なんとこれらのクローンがmedial領域に存在する場合には、やはりそれに隣接する周辺細胞に細胞非自律的な細胞増殖が強く引き起こされることが分かった。以上の結果は、いずれも「細胞非自律的な細胞増殖を引き起こすにはDppの絶対量ではなくて濃度差が必要」という仮説を支持するものとなった。 これらのデータをもとに、「モルフォゲン勾配によるgrowth regulation」に関する興味深いモデルが提唱された。詳細は省くが、Dppシグナルによって発現誘導される“架空の細胞表面分子X”を想定し、この分子を介したシグナル伝搬モデルである。Xは細胞自律的な増殖促進因子であり、細胞外ではホモフィリックに結合、細胞内では非対称に分布、その活性はX自身の局在に影響を及ぼし、さらにこの非対称なXの局在は細胞から細胞へ伝搬される、というのがこの仮説の条件。まさに、frizzled変異クローン内のplanar cell polarity障害が伝搬する‘domineering nonautonomy’のモデルにヒントを得たものである。少なくとも、ここに示されたデータは全てこのモデルによって説明できてしまうのだ。 モデルが正しいかどうかは別として、この概念は大変興味深い。著者らも指摘しているように、domineering nonautonomyを担う膜タンパク分子Fat, Dachsousは同時にtissue growthにも深く関わる分子であり、growthの制御においても類似のシグナル伝搬機構が存在していたとしても不思議ではない。また、この一過性のnon-cell autonomous growthの意義は本当にこれだけなのか、一つの特徴的な現象としても大変興味深いところである。
by maplefly
| 2007-01-10 23:59
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